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WARD

言の葉~踊りについていただいた言葉のページです~

小さくて  小さくて  秋の土の匂いみたい  

 

春の最初の微風 まだ春じゃない やさしくてやさしくて  

 

まだ  まだ  これから咲くか  

 

どこに 目がない風  見えない風  足だけ持っている風 

 

一歩  一歩  中に  小さく  小さく  やさしく  やさしく  入ってくる

 

Tiziana Longo・ダンサー

 冷たい床だろうにだろうに、素足の裏は一番柔らかい部分をその上に押し付けられたままじっとしている。

 

音楽は辺りに流れている。先ほど指が摘み上げた一葉のティッシュペーパーだったけれども、まずは手の甲にしずと留まり、するとそれがもはや紙葉ではなくなっていた。

 

花弁であり蝶であり女であってもいい、一度きりそのものである為、そもそも名を付けられる必要のないものとして、視線を絶えずそぞろに誘惑している。

 

場に生じ得るあらゆる感情は、いかなる先行癖も持たぬまま揺れに従うべきと。

 

手に点滅するこの白いものが加藤さんの意識を静かに弄ぶ様は、皮膜スクリーン一枚隔てた向こうに覗かれる。こちら側からの興味はその醸しに支配される。身体はまるで「見る」という行為の最初を生々しく追体験している。

 

このような目の奪われ方をすれば、元へ戻る為にはまた、ああ、音楽が辺りに流れている、と気が付いてしまう必要があり、床に押し付けられた足の裏の皮の薄い部分に気を揉む必要があり、稽古場という居場所を確かめる用意をするはず。

 

 しかし、そうする間にも彼の身体は微に先へ、白いものが流れを続行する先に移っているので、目は「見る」ことの始まったところから離れることができない。その場、その時は不断に流れ去っていく。赤ん坊の眼差しはそのことをつぶさに教わっているのだ。

 

不可逆に通り過ぎていく身体のエチュードは、稽古場の冷たそうな床の上から、ほんの束の間、ふと行方不明になったかと思うと、「終わりです」。加藤さんがお辞儀をしてくれた。

 

加藤さんのエチュード・中西良之

ハルノバラ       新城順子

 

種から生まれ芽が吹いて

蕾が膨らみ花咲くように

男の肌に花が咲く

 

女でもなく 男でもなく

子どもでもなく 大人でもなく

生きとし生ける それは生命

 

胎動にも似た旋律の中

日出ずる国の赤児のごとく

 

不可思議な   その紛いの赤色は

薄皮となり恍惚を包み込む

 

春の湿った寒い夜

 

女の仕事は絵を描くことで

男の仕事は絵を描かせること

 

春の薄い緑から  初夏の濃い緑へと

紫の花は  枝の緑を縫って咲く

 

筆は葉や枝を巻き付かせ

縛り縛られ  解き解かれ

 

女が描く肌の上  筆が踊る肌の中

男の肌も紅色に  染まり染められ

 

旧バラ荘

 

腿に  胸に  咲くのは大輪  薔薇の花

 

女の仕事は止め処なく

男の肌を滑り流るゝ

 

捩らせて此処に描いてよと

また捩らせて向き変えて

 

肌にはいつしか季節が流れ

時の花が乱舞する

 

男の身体も花となり

ゆらりゆらりと振れ揺れる

 

手のひらには赤い薔薇

血の色にも見える赤い花

 

そして

 

静かに 一礼

 

           舞踏:加藤 道行

           音楽:伽藍

           えがきびと:ninko ouzou

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